7月19日19時18分配信
産経新聞「私は日本で五指に入るトレーダー。絶対に損はさせない」。外国為替証拠金取引(FX)の運用をめぐり無登録で多額の出資金を集めていたとして、大阪市中央区の
投資会社「アライド」のメンバー6人が金融商品取引法違反(無登録営業)などの疑いで
大阪、
高知両府県警の合同捜査本部に逮捕された。
口コミや
セミナーを通じて20都府県の約280人から約20億6千万円を集めていたが、広告塔になっていたのは「カリスマトレーダー」と呼ばれたアライド代表社員、杉本淑枝容疑者(37)だった。
墜ちたカリスマ女トレーダー
■「セレブ」を売りに
「経済情報が日本政府よりも早く入手できる」。平成20年4月、高知市内で開かれたアライドの決算報告会。杉本容疑者は、集まった顧客らを前に熱弁をふるった。花柄の
ワンピースに金の
アクセサリーを身につけ、透き通るような白い肌に鼻筋の通った顔立ち。「セレブ」な雰囲気を漂わせながら、豊富な投資知識を披瀝(ひれき)する姿に顧客は引きつけられた。
知人の紹介で会場を訪れていた50代の女性は「上品で、芦屋のマダムみたい。間違いないと感じた」。結局、計約1800万円を出資したという。
アライドは、この杉本容疑者と、周囲から「社長」と呼ばれていた実質的経営者、五十川毅容疑者(39)が中心となり19年6月に設立。20年2月には高知市内に勧誘窓口の営業所を立ち上げ、安岡利通容疑者(40)を責任者に据えて、口コミやセミナーで「お金持ちしか知らないもうけ話がある」と勧誘していた。
出資は1口10万円。30口未満で月2%▽30口から150口未満で月3%▽150口以上で月5%−と口数に応じて配当額を設定。配当は毎月滞りなく支払われ、大阪、高知のほか、奈良や東京、千葉などからも出資者が相次いだ。中には数千万円以上投資した人もいたという。
■実際は自転車操業
だが、その実態は「火の車」だった。
捜査関係者によると、アライドは集めた出資金約20億6千万円のうち、東京都や愛知県のFX取扱業者を介して約3億6千万円を運用。最初のうちは利益を出していたが、平成20年3月に約2億1千万円、米国発の金融危機直後の20年10月には約1億1千万円の損失を出した。
こうした状況下でも、アライド側は出資者に一貫して「利益が出ている」と説明。20年10月に開かれた説明会でも、「運用純収益は6億3700万円」とする決算報告書を顧客に見せていたが、実際には残った約4千万円も取引先の口座から引き出し、配当に充てる自転車操業状態だった。
その1カ月後の11月、杉本容疑者から顧客あてに1通のメールが届く。「弊社設立メンバーの詐欺、横領、背任の事実が発覚した。高級外車購入費用やハワイの別荘購入など、私的流用額は判明しただけで数億円ある」という内容で、その直後に配当はストップ。杉本容疑者は、会社の口座から約6600万円を小切手で振り出し、住んでいた大阪市内の高級マンションから姿を消した。
■所持金たった2万円
「カリスマトレーダー」と呼ばれた杉本容疑者とは、どんな人物なのか。関係者によると、秋田県出身で、証券会社などでディーラーとして勤務経験があったという。アライド代表社員として活動している際には「熊谷淑枝」と名乗っており、「夫がディーラーで、FX取引を学んだ」と周囲に話していたという。
平成10年の外国為替取引自由化で可能になった投機商品のFXは、元手となる証拠金の数十〜数百倍の米ドルや欧州ユーロなどの外貨を売買、為替の変動による利益を得る取引。少ない元手で大きな利益を得られる可能性がある半面、リスクも高い。
だが杉本容疑者は、「カナダやフランスの銀行に知り合いがいる」と外国の金融機関とのコネクションを強調。アライド幹部も、20年9月の「リーマン・ショック」で不安を訴える出資者に対し、「彼女は事前に情報を得て、逆に利益を得ている」と説明していた。
大阪から姿を消した杉本容疑者は、東京都内にある知人宅や、
インターネットカフェを転々とする「逃亡生活」を送っていた。最後の潜伏先は、世田谷区用賀にある
ビジネスホテル。青いヒョウ柄のワンピースに黒いスパッツ姿で外に出てきたところを、捜査員に発見された。ほおはこけ、「生活に疲れた様子だった」(捜査関係者)といい、所持金は2万円だった。
■被害拡大させた「外交員」
現在、捜査本部は組織の実態や
資金運用の全容解明を進めているが、特徴的なのが、アライドが「外交員」と呼んでいた勧誘を手伝う出資者の存在だ。
新たな出資者を紹介するごとに出資総額の数%の手数料をアライドから受け取っており、特に、安岡容疑者が仕切っていた高知営業所には十数人の外交員がいて、多い時で月100万円を稼いでいたという。捜査本部は、こうしたマルチ商法型の手口が被害を拡大させた一因とみている。
また、顧客をだます意図があったのかどうか、詐欺容疑での立件の可否も焦点になる。
これまでの調べで、アライドが集めた出資金から、FX運用分を除いた約17億円のうち、配当金や紹介料は約9億4千万円、会社の運営経費は約4億6千万円に上ることが判明。残る約3億円のうち、杉本容疑者が引き出した6600万円以外は、五十川容疑者が高級外車の購入費に充てていたとみられる。
アライドは設立半年後の平成19年末、顧客や顧問税理士から無登録営業を指摘されていたにもかかわらず、登録せずに営業を続けていた。また、閉鎖する直前の数カ月間にペーパーカンパニーの株式会社計5社を次々に設立、顧客に対し「出資金を新会社の株券購入に回してほしい」と打診して契約変更を迫っていたことも判明している。
捜査関係者によると、両容疑者は無登録営業という逮捕容疑は認めているが、杉本容疑者は「会社を実質的に統括していたのは私ではなく五十川容疑者」、五十川容疑者は「私は社長ではない」と、責任を押しつけあうような供述をしているという。
捜査本部は、杉本容疑者がFX運用と顧客への説明、五十川容疑者が集めた金の管理と顧客の勧誘を行うなど役割分担。「二人三脚」で運営していたとみている。